近年は、ランサムウェアによる被害が国内外で相次いでおり、製造業を狙うサイバー攻撃が増加傾向にあります。
⼀社が被害を受けると、サプライチェーン全体に影響が連鎖するリスクがあり、実際の被害事例を受けて各業界団体でもセキュリティ対策の強化を求める動きが加速しています。
当記事では、製造業を狙った攻撃が続く背景から、⾃⼯会ガイドラインが求める教育要件、そして効果的な訓練の進め⽅まで解説します。「業務停止リスクを防ぐためにまず取り組むべきこと」として、実務に即した訓練設計のヒントを学んでいきましょう。
製造業を狙う理由
製造業は長年、機密情報や生産ラインという「止められない資産」を抱える業種として、攻撃者にとって魅力的な標的でした。近年では、サプライチェーン全体のデジタル連携やDX推進が進む一方で、管理範囲の拡大による脆弱性が顕在化しています。
ここでは、なぜ製造業が狙われるのかを見ていきましょう。
1.サプライチェーンが攻撃の侵入経路に
製造業は、一次・二次サプライヤー、物流会社、保守ベンダーなど多くの企業とシステム連携しており、サプライチェーン全体が攻撃の入口になり得ます。そのため攻撃者にとっては、侵入口を見つけやすい構造になっています。
特に、セキュリティ対策が相対的に手薄になりやすい中小規模の取引先を突破口にし、連携先のシステムや親会社へ侵入する手法が多く見られます。直接大手企業を狙うよりも成功確率が高く、侵入後に影響を広範囲へ波及させられる点は、攻撃者にとって大きなメリットです。
2.DX化とOT/IT融合が生んだ新たな脆弱性
DX推進により、ITシステムとOTシステム(1)の融合が加速しています。かつては外部ネットワークから切り離されていた生産設備も、 DX化の波により業務システムやクラウドと接続されるようになりました。その結果、攻撃者がIT経由で侵入し、業務システムから製造ライン側まで影響範囲を広げるケースが増えています。
(1)工場の制御系システム
自工会ガイドラインが示す「教育・訓練」の必要性
製造業のサイバー攻撃対策を体系的に進めるうえで、業界団体によるガイドラインは実務の指針となります。特に自動車業界においては、自工会(日本自動車工業会)が策定した「自動車産業サイバーセキュリティガイドライン」に沿った教育・訓練が、サプライチェーン全体の信頼維持に直結しています。
ここでは、ガイドラインの概要と、先進企業がどのように実践しているかを解説します。
「自動車産業サイバーセキュリティガイドライン」の概要
自工会・部工会・電装工会が共同で発行する「自動車産業サイバーセキュリティガイドライン」では、以下のような教育・訓練活動の定期実施を推奨しています。
- 標的型攻撃メール訓練の実施
- 各部署の情報セキュリティ管理者に対して教育を実施
- 実施すべき基本的なセキュリティ対策に抜け・漏れがないか定期的またはは必要に応じて確認
ガイドラインは多項目のチェックリスト形式で構成され、段階的なセキュリティレベル向上を求める内容となっており、対応状況の自己点検や取引先監査での活用が推奨されています。
ガイドラインの遵守状況がサプライヤー監査や取引先評価の判断基準に組み込まれるケースも増えており、その結果として教育・訓練の実施有無がサプライヤーとしての信頼性や取引継続の可否に直結する傾向が強まっています。
出典:自工会/部工会・サイバーセキュリティガイドライン|JAMA・JAPIA
実施が進む企業の傾向
情報セキュリティに対して先進的な取り組みを行っている企業では、全社員を対象とした標的型メール訓練と部門ごとの重点教育を、年数回実施している企業も増えています。代表的な取り組みは以下の通りです。
- エンジニア部門や購買部門など、業務内容に応じた訓練内容の最適化
- 演習や訓練後の効果測定とPDCAサイクルによる継続的改善
- 机上演習やインシデント対応シミュレーションによる緊急時連絡網・復旧手順の実地確認
教育・訓練の履歴や結果は取引先との監査・選定時に提出することが多く、一部の企業では、教育・訓練の実施状況を取引先評価の要件とする動きも見られます。
費用対効果の面では、年間で数十万円規模の投資が大きな損失防止につながったとする企業報告もあり、訓練の実施による経営リスクの低減といった成果も見られ始めています。
出典:サイバー攻撃を受けた組織における対応事例集(実事例における学びと気づきに関する調査研究)|内閣官房内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)
標的型攻撃メール訓練とは?
技術的な防御をいくら強化しても、最終的に狙われるのは「人」です。標的型攻撃メール訓練は、社員一人ひとりの判断力と警戒心を高める実践的な手法として注目されています。
ここでは、訓練の目的・効果から、製造業に特化した設計のポイント、社内導入の際に意識すべきポイントまでを紹介します。
訓練の目的と効果

標的型攻撃メール訓練は、実際のサイバー攻撃を模した疑似メールを従業員に送信し、開封率・報告率などの反応を数値として集計したうえで、結果を可視化する取り組みです。継続的な実施により、従業員の警戒心や対応力が組織文化として定着し、結果的にセキュリティ水準全体の底上げにつながります。
AIが生成する「本物そっくりのメール」にも対応できるスキルが養われ、最新の攻撃動向への備えが強化されます。
製造業に適した訓練メールの特徴
製造業に適した訓練メールは、以下のような実務で頻出する業務文脈を模倣した内容が効果的です。
- 業務で頻出する件名・文脈
例:納期変更、部品発注、不良品(品質)連絡、検収・請求、業務システム(ID/パスワード)案内 など - 取引先・現場の運用に寄せたリアルさ
取引慣習や部門の業務フローに合わせ、担当者が「自分ごと」と感じやすい内容にする
より高い効果を得るには、訓練の目的設定や結果分析を行い、部門ごとの課題に応じた改善につなげることが大切です。なお、製造業向けの訓練メール文面例や、おすすめの設計手順(目的設定~分析・改善)を以下の資料にまとめました。
ぜひダウンロードのうえご確認ください。


